夏になると、熱中症への注意を喚起する広報やイベント活動が各地域で行われている。にもかかわらず、毎年4~5万人が熱中症で救急搬送され、そのうち数十名が死亡している。
厚生労働省が平成26年に全国の都道府県や市町村に対して行った熱中症対策に関する調査に基づいて、糸魚川氏が自治体による熱中症対策の効果を分析している(J. Environ. Eng., AIJ, 80(716) 993-1000, 2015)。
糸魚川氏によれば、何らかの熱中症対策を実施した自治体のうち、7割程度でチラシやリーフレットの配布と、人を介した注意喚起がなされている。また、自治体の行う熱中症対策の行き届いている程度(カバー率)が上昇すれば、熱中症の発生率が低下する傾向は見られたが、統計的に有意な関係は見られなかった。また、熱中症への注意を喚起する媒体の数が増えるほど、熱中症の発生率が低下する傾向は見られたが、統計的に有意な関係は見られなかった。
多くの自治体で実施されている紙媒体や人を介して行う熱中症の注意喚起による効果は、他の対策と比較して大きくはなかった。その一方で、実物対策(熱中症対策の物品配布や冷房の効いた公共施設)の開放は、実施している自治体は少ないものの回帰係数は大きく、より大きな効果を得られる可能性があると糸魚川氏は考察している。
しかし、実物対策は、実施している自治体が少ないため、統計的に有意な差を見出すには至っていない。今後はより多くの自治体で、声かけ等の注意喚起だけでなく、物品配布等の実物対策をより多くの自治体で実施して、その効果を検証していくことが必要であり、熱中症対策研究の課題の1つといえるだろう。